パンダTを着た“奇才”ランナー 大丸さんはこれからも走り続ける。
2021.11.03 / INTERVIEW
VIDEO CREATED BY Jack Webb & Peter Miles
パンデミックを経て消費動向や手法も大きく変わる中、今シーズンもOVERCOATは日本各地でポップアップショップを開催している。多様化するファッション業界において、 最近では「穴」にもっとも興味がある(前篇をご参照ください)という奇才・大丸隆平さんが、もっとも大切にしている姿勢とは?
インタビュー第2弾・前篇「OVERCOATの大丸さんと「穴」についての哲学的な話。」はこちらから。
市川暁子(以下A):この秋もDICE & DICEでポップアップをされるそうですが、お客さまもお待ちかねなのでは?
大丸隆平(以下O):長年ものづくりをしてきましたが、自分が作った服を着てくださっている方と直接お目にかかれる機会はなかったから、僕も皆さんにお会いできるのは嬉しいです。最近はリピーターの方も増え、お顔とお名前が一致してきて、あの方はこれ買ってくれるかな、みたいに思い浮かべながらデザインしたりします。
A:それはスペシャルですね、そこまでお客さまと近い関係性が作れているブランドもなかなかないのでは。
O:昨今ではファッション業界も多様化してきています。僕はファッションといえばまず真面目にパターンや縫製を学ぶのが大事、と思ってやってきたけど、純粋にものづくりだけを突き進めて行ってもビジネス的に成功するとは限らない。そんな中、自分の歩んできた道がお客さまに受け入れていただけているのか不安に思ったこともあったんですが、
ポップアップをやってみてお客さまの反応を直接感じながら売れていく、という確かな手応えを得ることができたんです。自分、政治力とかないんですよ、有名人の方とかもよく分かってないし(笑)。
A:DICE & DICEのポップアップには大丸さんが幼稚園の時からの同級生の方などがいらっしゃると聞いたんですが、そういうのってすごく素敵だなあ、って思いました。セレブやファッション業界の人ばかりでなく、純粋に大丸さんに会いに来られて、それでコートを買っていく、って。
O:うちのオカンの年代、70代の方とかもいらっしゃいますよ。僕は似合わなかったら、ちゃんと言うんですけど、ギャバジンのドルマンスリーブのコートとかすごくお似合いになったご婦人もいらっしゃいました。
A:お母さまはOVERCOAT着ておられるんですか?
O:はい。でもうちの母親は僕が何をしているのかは、正確にはわかっていないかも。以前、散々自分の仕事について詳しく説明した後に、うちのオカン「隆平がお洋服屋さんの店長になってくれたら、お母さんは一番嬉しいわ」って言ったんですよ。多分店長が一番偉い、って思ってるんでしょうね。「あ、俺、それはちょっと無理だな」って(笑)。OVERCOATは服としては気に入っているらしく、よく着ているみたいですよ。
A:たくさんコートとかを抱えて日本全国で売り歩いているイメージを持たれて、もしかして会社が大変なのでは……? とご心配されているのかもしれないですね(笑)。コロナ禍でもありますし。
ゴッホ展の磁石とパンダTの違い、とは?
A:パンデミックの時代においては人々の買い物の仕方も変わって、アマゾンの売り上げが最高になったりしていますが、逆に大丸さんがされていることはその対極ともいえます。実際に物を持って、現場に売りに行く、という。O:本当はそれが理想的ですよね。一番大事なのは、どんなプロダクトだったとしても、作った人の考えがちゃんと入っているか、そしてそれがきちんと伝えられるかどうか、だと思っています。
例えば、ゴッホの展覧会に行って感動して、記念にお土産のコーナーで何か買おうかと思っても、結局何にも欲しいものがない。磁石とか、傘、とか……あまりにアーティストの意思とはかけ離れたプロダクトしかないんです。
A:ゴッホにしてみたら、自分の作品をもとにした磁石が後世に作られることになろうとは、夢にも思わないでしょうしね。
O:もしもゴッホが本気で作った磁石のお土産があったら、めちゃくちゃ欲しいです、なぜ磁石なのか? って興味があるし。でも、今ある磁石は本人の意思は全く入っていない単なるコピペ商品なんですよね。第3者が作っていたとしても、どこかにインスピレーションとか、アイディアを入れて作られていればいいんですけど。
OVERCOATってきちんとコンセプトがあって、それがプロダクトに表現されているかどうか、をとても大事にしているんです。単なるコピペのスーベニアTとは違う。
A:ハイブランドであっても単にブランドのロゴがプリントされてるだけのTシャツやバッグも多く見かけます。それってクリエーションとは言えないですよね。
O:中途半端なものが一番だめですね。チャイナタウンで売られているパンダTくらいまで行ったら、逆に面白い。作者不明なくらいまでコピペされているような、どうしようもないようなものも僕、好きなので。
大丸さんがもしもマラソンランナーだったら?
O:ファッション業界って実はとてもエントリーが広い。だからマラソンで言うと市民ランナーみたいな人がたくさんいるんですよ、いつでも誰でも、私、今日からクリエーティブディレクターです、って言えちゃうみたいな。参加人口が多い競技なんです。A:途中棄権する人も多いんじゃないですか? 長く走り続けるのは難しくて。
O:そうですね。でも僕はやっぱりいつも2時間台で走りたいな、って思ってるんです。時には4時間台の市民ランナーが人気になって、めちゃ儲けたりもする。僕みたいなランナーの方が、マーケティングしにくいと思うんですが、でも、ここ数年、ポップアップを地道にやってきて、きちんと売り上げが立った、っていうことは皆さんに認めていただいている、ってことなのかな、とは感じます。
まずはプロとしての覚悟、そして最終的に出来たものが美しいかどうか、が大事。人によってはどう頑張ってもダサいこともあるけど、市民ランナー的な人に限って、努力賞を欲しがるんですよね。
例えば、イチローって、引退しても筋トレを続けている。何年もアメリカにいたのに、最後まで英語でインタビューに答えなかったって、きっと誰とも連まずにずっと野球だけやってた、ってことだから逆にすごいなあ、と思いました。でも、本人はたぶんそれを努力、とは感じてなかったんじゃないか? きっと単純に野球が好きで、楽しかったんだと思う。
人から見たら、僕も苦労しているように見えるかもしれないけど、僕自身はそうは感じてない。時々、睡眠時間が足りないな、とかはあるけど、苦痛ではないんです。
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インタビュー第2弾・前篇「OVERCOATの大丸さんと「穴」についての哲学的な話。」はこちらから。
インタビュー第1弾「Dice&Dice、OVERCOATと出逢う。」はこちらから。
Dice&Dice ONLINE STORE「OVERCOAT」商品一覧はこちらから。
ダイスアンドダイスでは11月13日(土)から11月21日(日)の期間「OVERCOAT LAUNCH EVENT FALL 21」を開催します。
“ニューヨークを着る”をコンセプトに、サイズ・ジェンダー・エイジを問わないボーダレスなデザインを追求するブランド「OVERCOAT」
今イベントでは、今季の2021秋冬コレクションをご覧いただけるほか、2022春夏コレクションの先行オーダーも受け付けます。
またポップアップ限定の商品として「OVERCOATの原点」ともいえるドルマンスリーブコートや、スーツとしても着用できるジャケットとパンツなど、べーシックなプロダクトを揃えたシリーズの販売もおこないます。
11月13日(土)と11月14日(日)の2日間はデザイナー大丸隆平が在店し、ご来場のお客様に対面接客をおこなう予定です。
みなさんこの機会に、大丸さんへ冬の装いをご相談してみてはいかがでしょうか?
「OVERCOAT LAUNCH EVENT FALL 21」
会期:2021年11月13日(土)〜11月21日(日)
会場:ダイスアンドダイス
住所:福岡県福岡市中央区今泉2-1-43 DXD bldg 1F
電話番号:092-722-4877
営業時間:13:00〜18:00
定休日:火
入場:どなたでも自由にご入場頂けます
※11月13日(土)と11月14日(日)の2日間は営業時間を13:00〜21:00とさせていただきます。
大丸隆平
福岡県出身。文化服装学院卒業後、日本を代表するメゾンブランドにパタンナーとして勤務。2006年、某ニューヨークブランドにスカウトされ渡米。2008年、ニューヨークのマンハッタンにデザイン企画会社「oomaru seisakusho 2」を設立。名前の由来は実家のやっていた家具工場で、モノ創りをベースにファッションにおける新しいステータスをクリエートするという理念のもと立ち上げた。スタッフは全員日本人で構成し、MADE IN JAPANの創造力、品質を世界に発信し続けている。現在も数多くのクリエーターに企画デザイン、パターン製作、サンプル縫製サービスを提供する。2015年秋冬シーズンより、ブランド「OVERCOAT」をスタート。2016年、「大丸製作所3」を東京・神宮前に設立する。
(受賞歴等)
2014年 第2回 CFDA FASHION MANUFACTURING INITIATIVE
2015年 第33回 毎日ファッション大賞 鯨岡阿美子賞を連続で受賞
OVERCOAT
OVERCOATは「Wearing New York(ニューヨークを着る)」をブランドの原点とし、デザイナーの大丸隆平がスタートしたブランド。設立当初は、THE GREATEST OVERCOATS PROJECT by oomaru seisakusho 2という名で、コートのみのブランドとしてユニセックスによる展開をしていた。数シーズンを経て、現在では、ジャケット、パンツ、シャツ、スカーフ等トータルルックを製作するようになっている。ニューヨークの「oomaru seisakusho 2」ではアポイント制でカスタムオーダーにも対応している。パターンの特徴は、ショルダーラインに工夫を凝らしているところ。プレタポルテでありながら、まるでオートクチュールのように、着る人にフィットする美しいシルエットを築く。サイズ・ジェンダー・エイジを問わないボーダレスなデザインを提案している。素材は、シーズンによって世界最高品質を誇るメーカーと共同開発で製作。古い制服や軍服として使われていたものを復刻したり、ユニークな後加工を施したりすることで、つねにアップデートされたものを提案している。
市川暁子
NYを拠点にファッション、デザイン、アート分野のブランディングおよびコンサルティング業務を手掛ける。ニューヨークコレクションのリビューは20年以上続けており、新聞雑誌媒体の編集や執筆活動も。